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「Classroom☆Crisis」公式インタビュー
第2回:林ゆうきさん(音楽)

「Classroom☆Crisis」にはさまざまなクリエイターが参加しています。その方々のクラクラに対する思いをみなさんにお届けできたら。そんな思いでお届けする連載スタッフインタビュー。
今回登場していただいたのは劇伴担当の作曲家・林ゆうきさん。林さんは高校時代にはじめた新体操で、自分の演技のための伴奏曲を選曲するところから音楽制作の世界に入っていき、やがて伴奏曲の作曲自体をするようになった経歴の持ち主です。クラブミュージック・プロデューサーで知られるhideo kobayashi氏に師事した後、「リーガル・ハイ」や「ストロベリー・ナイト」などのテレビドラマをはじめ、映画、アニメの劇伴を手がけるようになります。
長崎健司監督とは「ガンダムビルドファイターズ」に続いて2度目のタッグとなる本作。印象的な曲が並ぶ劇伴となっていますが、どのように曲作りをしていったのでしょうか。お話をうかがいました。

絵や話が仕上がってきた時に、音楽がちゃんと受け止められるように。

試聴

<M00>
<M01>
<M08>

―今回、長崎健司監督が作曲家さんで真っ先にお名前を上げられたのが林さんだったとのことです。お二人は『ガンダムビルドファイターズ』以来、2度目のタッグとなりますね。

本当にありがたいことです。

―完全オリジナル作品である『Classroom☆Crisis』のコンセプトはどのタイミングで知りましたか? またその時の印象はいかがでしたか?

会社のスタッフから「長崎監督からオファーが来ている」と聞いた時ですね。「高校生サラリーマン? え……?」という感じで(笑)。それ以上の情報は打ち合わせまで入れないようにしていました。

―それはどうしてでしょうか。

直接顔を合わせた場で思いもよらない情報が得られたりするんです。監督や音響監督と話すことで刺激を受けて頭が猛烈に働き始める。そのために前情報をあえて入れないようにしています。

―その最初の打ち合わせは2014年の夏頃だったとうかがいましたが、長崎監督や藤田亜紀子音響監督とはどのような話をされたのでしょうか。

作品性や世界観を共有するためのお話をしました。楽曲の発注メニュー表もその時にいただいて、「社歌」や「演歌」の発注も書いてあったので、それを掘り下げてできたらいいね、なんて話をしてましたね。

―軸となるメインテーマはどのようにしてイメージを掴んでいったのでしょうか。

発注メニュー表にはジャンルや使用楽器、曲の展開などがかなり具体的に細かく書いてあって、そこから自分なりに消化した<M00>を作ってデモを渡しました。ただ、それはちょっと違ったみたいで(笑)。改めて送ったものがメインテーマ<M01>になっています。

―最初に作られた曲<M00>と、メインテーマとして本採用となった曲<M01>の違いはどういうところにあったのでしょうか。

「ビッグバンドで」とメニューにあったのですが、僕自身ビッグバンド系はいろいろ作ってきていたので、ちょっとひねった路線を提示してみたんです。ただ、藤田さんにも確固としたイメージがあったようで「もっと荒いものを」とオーダーが返ってきました。結果的には<M00>もPVなどで使っていただけているので、よかったなと思います。

―作りやすかった曲、作っていて楽しかった曲というのはありますか?

作ってて楽しかったのは「社歌」と第2話で登場する某有名ドキュメント番組的な曲ですね。ドキュメント番組的な曲は『熱情大地』 という仮タイトルを付けていて、怒られないかちょっと心配です(笑)。しかもギターを弾いているのはクライズラー&カンパニー再結成ライブ(2015年5月)でギターを担当した田中義人さん。レコーディングでは「みんなよろこぶよ!」って弾いてくださいました(笑)。

―逆に苦労した曲はありますか?

これも『熱情大地』ですね。調整が難しかったんです。レコーディングでピアノを弾いてくれた子に「やり過ぎないけどギリギリまで行きたい」と相談して、演奏してもらいました。絶妙なところを弾いてもらえたと思います。

―例えば今のお話のように、作った曲をレコーディングで変えていくということはよくあるのでしょうか。

やっぱりミュージシャンの方々は生々しいグルーヴやプレイを出してくださるので、打ち込みで作っていったものは捨てて、楽器構成自体から変えたりします。ミュージシャンとセッション的に作れるのはレコーディングならではですね。

―今回レコーディングで大きく変わった曲はあるのでしょうか。

先ほどもお話しした<M00>や<M01>です。打ち込みのブラスはすごくカッコ悪いんです。ミュージシャンにブラスをプレイしてもらう時はいつもソロアドリブを入れてもらうのでそこでガラッと変わりますし、ビッグバンドのものはベース、ギター、キーボード、ブラス、ほとんどが打ち込みから生楽器に差し替わるので、全然違うものになりますね。

―今回、新しく挑戦したような曲はありますか?

<M00>がそうですね。今まであまりやってきてなかった曲で、先ほども言いましたが作り慣れたビッグバンド形式をひねって、アニメだし近未来だしということでシンセ系の音も入れたのが<M00>でした。これまでもオーケストラのストリングスものにエレクトロニカを混ぜたものはやってきましたが、ブラスセクションでやるのは初めてでした。自分でも気に入ってますね。

―劇伴で毎回工夫していることは何でしょうか。

作品に合わせて楽器を変えたり、年齢層を意識することですね。今回、年齢層は高くはないと思いますが、会社ものでもあるので、上の世代も楽しめるように楽器編成の曲を大目に持ってきているのかな。これは藤田さんが意識されているんだと思います。

―そのほか、本作ではコメディー路線とシリアス路線、両極にあるような印象的な曲がずらりと揃っています。

基本的にメニュー通り作っていますが、こんなにコミカルな曲をたくさん作ったのは初めてです。シリアス系を作ることが多いドラマとは違い、新鮮でした。ドラマではメロディーがコミカルなものはあざとくなるのであまり作らないんです。その感覚でリズム中心に作っていたら、「メロディーがコミカルなものも欲しい」と追加の発注があったので、そこは勉強になりました。

―林さんが実感している劇伴の魅力というのは何なのでしょうか。

それだけで完成しない、というところですね。極論になりますが、カッコいい曲はがんばれば誰にでもできると思うんです。でも、サントラではがんばりすぎても抑えすぎてもダメ。そもそも「カッコ悪い曲を作ってください」って発注が来るジャンルって劇伴くらいだと思うんです。すごくうまいミュージシャンに「もっと下手くそな感じで弾いてください」とか(笑)。でもそれが絵と合うと、優れた技術のものより輝いたりするんです。映像とミックスされた姿を想像するところが醍醐味ですね。

―長崎監督に対してはどのような印象をお持ちですか?

細部にまでこだわりがある人だと思うんです。ひとつの仕草に対しても、人物1人1人にクセを付けて描き分けたりするような。ディテールにこだわる分、放送直前の今、現場はすごく苦労しているんじゃないかなと勝手に思っています(笑)。でもだからこそ監督の作るものが輝くんですよね。いい土になって、立派な樹が育ってほしいと思います。

―最後に視聴者のみなさんへメッセージをお願いします。

僕たちの作業って他のセクションよりずっと早い時期に終わるんです。作り終わってから作品の詳細を知るケースもあるので、音楽を作り終わってからは、一視聴者として放送を純粋に楽しみにしています。音楽に関しては、絵やお話がしっかり仕上がってきた時に、ちゃんと受け止められるように作っていると思うので、そのミックスアップを楽しんでいただけたらと思います。
取材・文 細川洋平
次回は7月10日(金)シリーズ構成・丸戸史明さんへのインタビューをお届けいたします。