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「Classroom☆Crisis」公式インタビュー
第4回:後藤晴香さん・小畑芳樹さん(撮影監督・撮影監督補佐)

「Classroom☆Crisis」にはさまざまなクリエイターが参加しています。その方々のクラクラに対する思いをみなさんにお届けできたら。そんな思いでお届けする連載スタッフインタビュー。
今回登場していただいたのは撮影監督の後藤晴香さんと撮影監督補佐の小畑芳樹さん。おふたりはCG・VFX制作をはじめとするアニメーションスタジオ・グラフィニカに所属しています。今回TVシリーズの撮影監督をはじめて務める後藤さんとそのサポート役を務める小畑さんに、「アニメの撮影って何?」という基本的なところから、実際どのようなところに注意しながらお仕事に取り組まれているのか、お話を聞きました。

作画のアシストとなるよう、加工感なき加工をしていけたら

―まずはアニメーションにおける撮影というセクションはどのようなことをしているのでしょうか。

後藤
すごく簡単に言ってしまえば、「絵」と「音」の合わさったものをアニメーションとすると、「絵」の部分を作り込む最終的な作業工程です。いろんな素材を一つに集めて映像にしています。
小畑
作画さん美術さん、3Dさんなど各部署から上がってくる素材をコンポジット(※複数のものを組み合わせること)して、環境効果を加えて空間にする仕事。……と思っているんですが、親に説明してもなかなかわかってもらえないくらい、説明しづらい仕事だと実感しています(笑)。

―例えば同僚のみなさんで「撮影」というお仕事に関して話し合われたりするんですか?

小畑

ええ、撮影監督それぞれでやっぱり違う考えを持っていたりしますし、どこまでが撮影の仕事なのかという話はよくしてますね。やろうと思えば作画や3DやCG、エフェクトまわりも撮影で全部カバーできてしまう。昔、上司に「撮影がやるって言ったところまでが撮影の仕事だよ」と言われたのは印象的で今も覚えています。

―本作において撮影監督と撮影監督補佐のおふたりは具体的にどういった役回りとなるのでしょうか。

小畑
基本的には撮影監督の後藤が全カットの最終チェックをします。納品直前の直しなども監督立ち会いの下、後藤が作業をします。僕は各話制作進行さんとのやりとりや社内スタッフへのアプローチ、技術的なサポートなどで、お互いの作業ウエイトによって補完し合うという形です。
作本
基本的にはフィニッシュラインを撮監がチェックして納品します。責任をキチンと負えるようにした手順ですが、その時のスタッフ編成次第で、スケジュール管理などをメインに動く撮監もいたりしますね。

―なるほど。そこは人によってなんですね。

作本
ええ。そして、だいたい4~5人チームで一作品を担当して、下にいるスタッフのサポートも撮監補佐が務めるという形です。ここは本作も同じです。

―そうすると後藤さんはスケジュール管理などではなくクリエイティブ面を担当する撮監さんというわけですね。

後藤
そうですね。その中でも私はシーン全体の雰囲気を決めることがメインで、メカや3Dなどは小畑が得意なのでメインをお願いしてます。

―作業に入る前に、長崎監督とはどのようなお話をされたのでしょうか。

小畑
初めの時期は「作画の力が強い作品だから、作画の線を活かせるように撮影処理もアプローチしてほしい」とおっしゃっていましたね。
後藤
作画メインでフィルターは薄くすること。そのため教室のシーンは薄めの処理でキャラクターを見せています。それ以外の、例えば第1話~第3話で登場するハンガールームとかは監督とじっくり相談しながら空気感を調整していきました。

―ハンガールームでは具体的にどういう処理をしていったんでしょうか。

小畑
空間の広さを見せたいと監督はおっしゃっていました。平板にならず、色のコントラストを強くして空間が奥まで存在しているように見せたいと。その処理調整をじっくり進めていきました。
後藤
シーンによってはすぐに決まるところともあるんですが、ハンガールームは調整にかなり時間がかかりました。
小畑

第1話というのはこちらが監督の好みを感じ取る期間でもあるので、そこでノリが掴めると進みやすくなります。フィルターに関してはかけるところ、かけないところがハッキリ決まっていたんです。例えばユウジの部屋やハンガールームといった場所は濃く。一方、宇宙はフィルターをかけない。日常シーンの朝の学校もフィルターは薄くする。ただ薄いと言っても何もしないわけではなく、グラデーションを入れたり質感を変えたり、加工感が見えないように加工をしています。画面がチープにならないように気をつかっていますね。

―処理の濃淡ってどんな作品にもあるものですか?

小畑
全編均一のトーンに見えるようなフィルターをかける作品がほとんどですね。一方、ここまでコントラストの幅が広くて「そこがいい」って言える作品はそうないかなと思います。
後藤
ここは盛る、ここは何もないのが逆にいいとハッキリしているのは珍しいですよね。
小畑
物語でもコメディーとシリアス、学校と企業といった「ギャップ」の話は監督がよくされていたので、その現れかも知れないです。

―第1話、カイトと笹山部長のふたりが夕方に校長室にいて、外から撮っているシーンは窓のサッシに太陽が反射しているところが印象的でしたが、その辺りは処理を加えられたりしたんですか?

小畑
この場面は夕日のフィルターも他作品より薄めにしてますね。太陽はどうだろう……。
後藤
……入れました(笑)。美術さんの上にちょっとだけ加えて。
小畑

お、そうだったんですね。他にも窓ガラスの映り込みを作ることもありますし、美術にある木の質感を足すこともあります。

―作業中、おふたりから提案というのはしたりするんですか?

小畑
まずは打ち合わせで決めた部分を可能な限り拾っていきます。その上でアドリブを入れるなら、コンテや演出意図に沿う形で入れますね。

―キャラクターの瞳が一瞬キラリと光ったりするところなどもアドリブではなく演出なんですね。

後藤
キャラクターの描写に深く関わる部分はさすがにこちらでアドリブはしませんね。
小畑
撮影は環境効果を作り上げるセクションですからね。タイムシート(※動画・仕上・撮影への詳細な指示が描かれた設計図)を基準に映像を組み立てていくんですが、タイムシートには演出さんの欄もあって、ぼかしをどう入れて、フレアをどう入れて、といった細かい指示が描かれているんです。ただ撮影のできることが複雑化していることもあって短い言葉では表現しきれない時もある。そういう時は意図を汲み取っていろいろと工夫していきます。そこも他の作業同様やりがいがありますね。

―第1話で人質になった転校生を助けるためにイリスが試作機「X-2」で飛び立つシーン、カイトを初めとするA-TECのメンバーが走って移動するところで足元にあるカメラ(画面)が大きく揺れますよね。すごく印象的なシーンでした。

小畑
臨場感を後押しする、という意味では撮影が効いているカットでしたね。実はあそこも調整に難航しました。作画重視でと最初に聞いていたので、僕たちは「画ブレ」「画面動」「モーションブラー(動きの残像)」をセーブしてたんです。この走るカットも作画自体凝っていたので、最初は振動なしで普通に撮っていました。そうしたら「やっぱり振動を入れて欲しい」と。画面の目の前に足を踏み込むので、そこに合わせて大きな振動を一回入れてみたけど、どうやらそうでもない。
後藤
私たちが悩んでいると監督が「『うる星やつら』のドタバタ感、学園コメディー感がほしい」とおっしゃったんです。そこで「あ、なるほど! じゃあこうですね」って提示したのがオンエアですね。走るだけじゃなくてコメディー要素も入れた画面動もあるんだと発見がありました。
小畑

こういうやりとりを繰り返してノリを掴んでいくんです。

―おふたりは長崎監督と今回初めてご一緒されていますが、どのような印象を持たれていますか?

小畑
いろんなケースにも柔軟に対応していてさすがだなと思います。もちろん監督として無茶をおっしゃる時もありますけど(笑)、話しやすいので、すごくありがたいことです。意見交換をしていろんなアプローチができますから。
後藤
作品に対する厳しさも持ちつつ、やわらかい感じの方ですね。シーンに関しても「ここはどうしてもこうして欲しい」という部分もあれば「お任せします」と言ってくださるところもあって。まだまだお付き合い初めですが、柔軟な監督という印象です。

―今回、撮影で意識されているポイントを教えてください。

小畑
撮影しながら実感しているんですが、今回は作画が充実していますよね。だから元の線を活かしつつもベタには見せない「加工感のない加工」にチャレンジしています。そこのノリは掴めたかなあと思います。
後藤
ギャグの感じも含めて作画がすごく好きなので、物語への理解を深めながら、よりよく見せるためのアシストを引き続きやっていきたいですね。

―ありがとうございます。それでは最後にみなさんへメッセージをお願いします。

小畑
SFものというよりはサラリーマン部分や青春部分がメインの作品ですが、その部分こそすごく共感してもらえるところだと思いますし、笑ってもらえたらうれしいですね。あとは経理・事務担当のユナやオペレーターのカオルコといった“エンジニアじゃない人たち”にも注目してもらいたいです。立ち位置が作品制作における僕らの撮影部門とも通じていて、表に出てくるわけじゃないけどがんばっている。そういう人たちのこともぜひ見てもらいたいです。
後藤
設定やストーリーが今までにないもので、コメディーもシリアスもある、作画だけ見てもすごく楽しめる。総合的なおもしろさが詰まった作品だと思います。絵も音楽も設定もストーリーも多方面のこだわりがひとつに合わさっている作品だと思うので、ぜひ楽しんでいただければと思います。
取材・文 細川洋平
次回、インタビューは音響監督・藤田亜紀子さんの予定です。