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「Classroom☆Crisis」公式インタビュー
第5回:藤田亜紀子さん(音響監督)

「Classroom☆Crisis」にはさまざまなクリエイターが参加しています。その方々のクラクラに対する思いをみなさんにお届けできたら。そんな思いでお届けする連載スタッフインタビュー。
今回お話をうかがったのは音響監督の藤田亜紀子さん。TVアニメ『ハナヤマタ』やTVアニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』などを手がける気鋭の音響監督さんです。クラクラ関連としてはTVアニメ『GO! GO! 575』でLay-duceと、TVアニメ『冴えない彼女の育てかた』でシリーズ構成の丸戸史明さんとお仕事をされています。長崎健司監督と手を組むのは今回が初。この度のインタビューでは作品作りの核心にまで触れていただいています。本作で丸戸さんが挑んでいることや長崎監督が描くビジョンなど、藤田さんを通してしか語られないだろう必読のインタビューとなっています。ぜひお楽しみください。

少し俯瞰な視点から物語を見渡してほしい

―本作にご参加された経緯をお聞かせください。

藤田
以前、音響監督を担当させていただいた作品(「GO!GO!575」)からの経緯もあり、Lay-duceの米内(則智)プロデューサーから連絡をいただきました。

―そもそも音響監督のお仕事とはどのようなものでしょうか?

藤田

監督は作品全体のディレクションをしますが、音響監督は、音楽や効果音、アフレコでの役者さんのお芝居など作品に纏わる全体の音を調整・ディレクションしています。
ただ、本作の現場では、長崎(健司)監督がセリフに対するイメージをすでにしっかりと持っていらっしゃるので、そこに近づけていく作業が多いです。アフレコ収録のときも最初のテストが終わった時点で、監督の意見をまず聞いて、それを役者さんたちに伝えて調整していく、といった感じです。私もそうですが、役者さんたちも最初の第1話、第2話で監督が求めているのはこっちの方向なんだなというのはみえてきたところがあって、第5話の温泉回では丁度皆さんもキャラを掴んでいたので、やりたい放題に近くて、もちろん監督からのディレクションもありますが、比較的自由にやっていただきました。

―ちなみに本作については当初どのような説明を受けたのでしょうか?

藤田
最初は丸戸史明さんが手掛ける「学園ラブコメ」というお話を伺っていました。10代の子のドラマ…という部分は現在のものと変わっていないと思いますが、「実写ドラマ寄り」な印象を受けたのを覚えています。ただ、その時から企業側の人間としてナギサはすでに物語の中心にいて、彼がやってくることでクラスのなかの人間模様が動いていく…というお話でした。ただ、ここまで企業や政治モノっぽい印象を受ける作品になるとはその時は思わなかったですけどね(笑)。

―アフレコ現場の雰囲気は如何でしょうか?

藤田
座長の森久保(祥太郎)さんが頑張ってくれています(笑)。
第1話の収録のときに、森久保さんにはいつもの森久保さんのやりやすいお芝居じゃないような演出を随分要求したんです。なのでアフレコ現場にはいっていちばん色々と相談をしたり、指導させてもらったのが実は森久保さんでした。たぶん森久保さんも第1話の収録のあとはだいぶ混乱してお帰りになったんじゃないでしょうか(笑)。最初はこちらの演出や指示に沿ってカイトを演じていただいた部分もあったと思うんですけど、今思うと森久保さんのなかでも意識してカイトというキャラクターを掴んだんじゃないかなっていうのが、第3話だったと思います。なんとなく監督が「こういうことを望んでいるのかな」っていうのを森久保さんも掴みはじめて。
第3話は本番前のテストのときに、長崎監督からも「カイトのキャラを掴みましたね」って言葉がぽろっと出ていました。

―逆にほかのキャストさんとはキャラクターの演技について相談をすることはありましたか?

藤田
今となってはキャラクターが確立されていますが、ミズキ役の小澤(亜李)さんは最初、お兄ちゃんがカイトっていうのを意識していたみたいで、自分もあの位のバイタリティで行かないといけないかな…みたいな先入観に縛られている感じはありました。
ナギサ役の内田(雄馬)さんはいい意味で怖いもの知らずだなと思います(笑)。一番ありがたいのは委縮しないところでしょうか。普通だったらこれだけのキャストに囲まれて、この立ち位置でやらされたら半分お尻がさがっちゃうと思うんですが、本番前のテストのときのから喰らいついていく印象がありますね。ナギサ役の内田さんは第2話のラストのナギサとカイトが言い合う場面、あそこで手ごたえを感じたんじゃないでしょうか。それがきっかけになって自分たちでキャラクターを動かそうという気持ちになったんだと思っています。

―現在のA-TECメンバーの一体感・クラスルーム感はどのように形作られていったのでしょうか?

藤田
座長の森久保さんのおかげです(笑)。本作では、アフレコ収録に入る前に役者の皆さんと製作スタッフの懇親会があったので、その時に長崎監督や米内プロデューサーの作品に対する熱い想いを聞いていて。森久保さんはその想いに応える環境をつくらなきゃいけない、と思ってくださって引っ張ってくれていると感じます。

―本作の音響をまとめていく上で軸となるキャラクターは誰でしょうか。

藤田

実は『Classroom☆Crisis』は、軸を作っちゃいけない作品なんです。音楽についてもそうなんですけども、誰かに肩入れして観せようとすると確実にフィルムのバランスが悪くなっちゃうんです。
なので話数ごとになってしまいますが、最近収録している全体の後半部分の『政治闘争編』では登場する政治家役の皆さんの演技がキーになっていて、カイトを含めてA-TECのメンバーたちはそれに振り回されて、しかもあまりわかっていない方がいいんだろうなと。
主人公といっても、あまり中心に寄せちゃうと物語が見えにくくなっていまうこともあるのが本作の面白いところです。なかでもブレずに観てほしいのはカイトとナギサでしょうか。お互い目指している方向は違うのに、一瞬それが、接しちゃうときの化学反応とか。最初は嫌味に笑っているだけだったナギサが、ちょっとずつA-TECに感情移入し始めて、それはたぶんカイトがいないと引き出せないところだったので。こうした点は特に女子のファンの皆さんに観てほしいかなと思います。

―カイトとナギサのダブル主人公がぶつかる様子は本作の見どころになっています。

藤田
しかもそこが分かりやすいバディシステムになっていないところが凄いと思います(笑)。影響はしあうのですが、お互いに手を取り合って目標に向かっていく…というところじゃなくて、思想は変わらずに近づきもしない、平行線なのに、それでもやっぱりダブル主人公になっているのが本作の魅力なのかなと思ったりしますね。

―長崎監督とは初の取り組みになると思いますが、監督の印象をお聞かせください。

藤田

フィルムのスタートから着地の部分まで、ちゃんと頭の中で見えている監督です。確実な置きどころは決めておいて、そこに向かって構成していきたいってプランが最初からはっきりされているので、凄いなと思いました。

―本作ならではの取り組みやチャレンジがあればお聞かせください。

藤田
自分のなかで一番チャレンジだったのは、「音楽をキャラクターの感情に付けず、俯瞰した目線で付けてほしい」という長崎監督からの注文です。私にとっては今までやったことがない取り組みだったので、音楽ラインを引くのが本当に分からなくなってしまって。

―それは例えば、キャラクターが悲しんでる場面で悲しい音楽を付けるのが正解ではない…ということでしょうか?

藤田
そうですね。キャラクター本人が悲しんでいても周りのキャラクターが違う感情を持っていたら、「悲しい」という感情だけで引っ張ってしまうとシーンが纏まらくなるということですね。
具体的にいえば、第1話の転校生を救出しに行くシーンは、結果として今は熱いシーンになっていますが、当初監督と相談しているなかではもっとドタバタのコメディに振り切ってもいいんじゃないかという話も出ていました。その場合、シーンとしては「向こう見ずな担任の意見に生徒が振り回されてる」といった印象が強くでることになったと思います。今でも『Classroom☆Crisis』を観た人から、「誰に感情移入したらいいかわからない」という意見を私も聞かれたりするんですけど、実は狙ってやっている部分だったりします。

―「感情移入させない」というのはどのような狙いからでてきたのでしょうか?

藤田

これは本作が、演出や映像を観ればキャラクターの感情が十分理解できるように作られているからこそできることなんです。なので逆に、音楽もそこを推してしまうと一方のキャラクターに肩入れして、格好いいシーンになってしまう。ナギサとカイト、ふたりの主人公がいて、お客さんにはどっちが正しいのかを選択する幅を持ってほしい、少し俯瞰な視点から物語を見渡してほしいからこそ、音楽をキャラクターの感情に付けないという手法をとっています。

―アフレコ・ダビングなどの音響作業の際に、本作だからこそ気を使っている点はどんな部分でしょうか?

藤田
丸戸(史明)さんらしいブレスをとることを許さないくらいの台詞量が本作の特徴です。その台詞量のなかでどの言葉を立たせて、お客さんに聴かせなきゃいけないのか…というのが、役者も含めて取り組んでいる大事な部分になっています。物語も後半になってくるとナギサ役の内田(雄馬)くんが一番、丸戸さんのブレスなしの長台詞に奮闘している印象ですが(笑)。

―改めて本作の魅力的な部分はどんなところでしょうか?

藤田
私もいままでやったことがないくらいに、誰にも感情移入しなくとも、話がものすごいスケールで動いているじゃないですか(笑)。だからそんなに気にしていない人だったのに、その人によって話が大きく動かされたり、それによってA-TECのメンバーとかカイトたちも翻弄されて、どっかに注目しているだけでは観きれない30分になっているのが面白いなと思います。
なかでもカイトとナギサのドラマはやっぱり見応えがあるので、長崎監督からは「藤田さん優しすぎます」とか言われてしまうんですけど、私はどうしても頑張ってるカイトを応援したくなっちゃうので、カイトの感情を少し目立たせちゃって却下されたりもしています(笑)。

―そのほか藤田さんが注目してほしいポイントを教えてください。

藤田
実は効果音を心情でピックアップして付けている部分があったりします。具体的には、第1話のナギサとイリスの出会いのシーンで扉が閉まる音が「ダーン」と大きく入っているんですけど、それはナギサの心(気持ち)がここで一旦、遮断されましたよという意味でつけていたりします。あとは脇を固める役者さんたちが豪華な方ばかりなので、是非、注目しながらご覧いただきたいです。

―最後に本作を楽しみにしているファンの方々へ一言いただけますか?

藤田
ここからさらにドラマがどんどん濃厚になっていきます。自分も毎回、アフレコやダビングのときは思わず物語に飲み込まれそうな勢いで取り組んでいますので、皆さんも是非、ここからの加速度的な物語の動きにしっかりと付いてきていただけるとうれしいです。
取材・文 片岡裕貴
次回、インタビューは8月中旬公開予定です。